人間いきいき通信 2002年

あなたに会えてありがとう

最近、頭の上に角ならぬアンテナが生えてきた気がする。友人に話すと話題のネタ探しだろうと冷やかされるのだが、何事も「意識を持って観る」と今まで何気なく見ていた出来事にも、新しいことを発見したり、深く考えさせられたりと、違って見えてくるから不思議である。心が動くのだ。
自称『人間ウォッチング』は、また私自身を見つめ直す心の合わせ鏡でもある。

人はみな、出会いと別れを繰り返しながら成長し、その人なりの人格を形成していく。しかし、その出会いも別れも、必ずしも自分が望んでいるようにはいかないものに思われる。神のみぞ知る天の配剤とでもいおうか。だからこそ何かに出会ったときにいかに受け止めるか、その心の有り様が大切なのではないだろうか。

先日、清流を求めて川を遡る魚の姿を、テレビで観た。餌は少なくとも外敵の少ない源流へと、危険を冒して産卵地を目指すけなげさ。そして生まれた魚は、成長するために餌を求めて逞しく川を下る。

正しく命をはぐくむ水の尊さに心を打たれ、又、あらためて「命」というものに思いを致した時、娘にこんな話をした。

「お母さんは今まで、みっちゃんに水道を出しっぱなしにしてたらもったいないって怒っていたけど、一番大事な水はみっちゃん自身の中、お母さんやみんなが生きていること、命そのものなんだと気が付いた。きれいなものを見たり聞いたりした時『心が洗われる』っていう表現があるけど、今のお母さんには頷ける。誰かの心を洗ってあげられるような、そんな温かい「水」を心に持っていたら、その人自身が一番幸せなんじゃないかな。」

娘ではなく私自身、今までどれだけの人の心を幸せに出来ただろうか。両親、子ども達、そしてこれまでに出会えた多くの人々・・。相手ばかりか返す刀で自分の心をも汚していたことがどれだけあったことか。考えれば考えるほど、今更リセットできないあの日あの頃にほろ苦い後悔の念を禁じえない。

1ヶ月ぐらいがたったある日のこと。

「お父さん、気にしていたにきびが治ったんだよ。毎朝、洗面器の水を両手ですくって、『水さん、いつも私の顔をきれいにしてくれてありがとう。』声に出して、水にお礼を言ってたら、ほら、にきびがなくなったんだよ。」嬉しそうに主人に報告してきたらしい。
娘は「お父さん大好き」で、こういう時、私はいつも置いてきぼりをくうのである。主人には「日頃の心がけの違いだよ。」といなされて、私もついつい納得してしまうのだが・・。

それはさておき、娘が私の言葉を通して何かを感じ取り、その思いをダイレクトに行動に示してくれたことに、私は大いに感動した。自分がこれだと思った時に、すぐさま形に表せる行動力が必要だと娘に教わった。

今、多くの若者が人間関係につまずいて悩んでいる姿を目にする。さわっただけでポキンと折れそうな繊細な心を、どうすれば少々の風が吹いてもへこたれないような、強い心に育ててやれるのだろうか。

私に出来ることは、『あなたに出会えて良かった』そう伝え続けることだと思っている。
例えば病気や事故のように、ない方がいいに決まっていると思えることでも、それに出会うことで人生に幅が出来る事もある。どんな出会いの中にも神様はいつもプレゼントを用意して下さっていると思う。心のアンテナを伸ばして、そのメッセージを真正面から受け止める勇気を持てたら、ピンチも必ずチャンスに変わる。心の向きをちょっと変えたら、誰だって喜び捜しの達人になれるはずだと私は信じている。

2002年 天理時報特別号「人間いきいき通信」掲載
執筆者:吉福多恵子


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