人間いきいき通信 2002年

おやの思いに守られて

 長男は、学生時代からせっせとアルバイトをしては、よくアフリカや中米へと、休みの度に貧乏旅行を繰り返していた。「せめて行くなら、アメリカやオーストラリアにしたら?」という私に、アフリカや中南米の混沌としたあの喧騒さ、そこに身を置くと、日本にはもうないような、沸沸と湧き上がるようなエネルギーを感じるのだと遠い目をして話してくれた。

大学卒業間近にして、在外公館派遣員に応募した時も、派遣先を希望するにあたり、教授に教えていただいて、治安の悪い国順に番号をつけたというのだから、親としてはたまらない。そうして決まったのが、飛行機でも丸一日以上かかるという南アフリカ。

「どうしても行くの?」と訊ねたら、「日本にいても、交通事故に遭うこともあるし、病気で命を落とすこともあるんだよ。神様に守っていただいたら、世界中どこに行っても大丈夫だよ。」と、逆に諭されてしまった。宗教者という肩書きの親には、二の句のつげない決めゼリフだなと、我が息子ながら天晴れと見上げる一方、その無鉄砲さにやや呆れながら、複雑な思いで送り出した。

我が家の三人の子ども達は、現在それぞれに別々の所で暮らしている。次男は高松で一人暮らし、そして末っ子の長女は天理で寮生活をしている。三人を手元から放してみて初めて、毎日の子ども達との些細なやり取りが、私にとってどんなに大切な時間だったかを感じるようになった。いつもカリカリと、目を三角にして子ども達に接していた自分が、恥ずかしい。

それと共に、振りかえってみれば、いかに多くの人々が、この子達の子育てに関わって下さった事だろうか。そして又、今、私の手の届かないところで、子ども達はどれほどたくさんの人々のおかげで、元気に暮らしてくれていることだろうか。『おかげさまで』という言葉を、感謝と共にそうしたすべての人々に捧げたいと思う。

私がそう思えるようになったのは、一人の女の子との出会いがきっかけである。

丁度次男が大学生活の為、家を離れた時に、それと入れ替わるように、岐阜で学生生活を始めるというお嬢さんを知人から紹介された。子煩悩なご両親は、さぞや心配だったのだろう。伝を頼ってお願いに来られた。時を同じくしての出来事に、我が子もきっとこうして様々な人のお世話になることだろうと思いは重なり、とても他人事とは思えなかった。

学校帰りや休みの日に顔を見せてくれる彼女をお客さん扱いしないで、一緒に料理を作ったり、洗い物を手伝ってもらったりしながら、彼女の近況に耳を傾ける。親元を離れた淋しさを乗り越えて、逞しく成長していく彼女の姿。その蔭には、痛いほどの親の祈りを垣間見た気がする。瞬く間の3年間であったが、帰郷された今でもふと気に掛かる時がある。『心の糸』とはこういうものだろうか。

親はどこまでも、子どもをこの手で守ってやりたい。しかし、いつかは巣から飛び立っていく子ども達。同じ空の下で、遠く子どもの幸せを願う親の思いになった時、私にもそう思って育ててくれた親がいることに改めて気が付いた。人は皆、そうした親の思いに守られて生きているのだ。

ましてや、この世の総ての親なる神様の、私たち子どもを思う親心となれば……。 

どこにいても神様に守られているという安心感が、私たち家族を繋いでくれている。

 長男が日本に帰ってくる桜の季節は待ち遠しいが、大空をもっともっと思いっきり羽ばたいてくれたらどんなに嬉しいだろう。そして又、三人の子ども達が、今まで誰かにしてもらったことを、有り難いと思い、今度は誰かにしてあげられるような人に育ってくれることを母は願っている。

2002年 天理時報特別号「人間いきいき通信」掲載
執筆者:吉福多恵子


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