心の奥に眠る言葉

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「くも」という題名の詩を読みました。

「空が青いから白をえらんだのです」

たった一行の詩です。

「空が青いから…、空が青いから…」読み返し、つぶやき、そして目を閉じて、心で何度も転がしてみます。何度も、何度も転がしてみます。言葉がだんだん広がって、雲の白さに吸い込まれ、やがて空の青さに溶け込んでいくような気持ちになりました。

この詩を書いたのは、実は少年刑務所に服役中の少年です。奈良少年刑務所が取り組んでいる「社会性涵養プログラム」の一環として、少年たちの更生を願い、彼らの情緒を耕すために、寮美千子(りょう・みちこ)さんという方が開いておられる「童話と詩」の授業から生まれたものです。

今までおよそ詩を書くことなどには無縁だった彼らが、この授業によって、心の奥底に鍵をかけてしまい込んでいた自分を取り出し、見つめ、原稿用紙に映し出すまでには、かなりの時間がかかったことでしょう。しかし、やっと紡ぎ出された言葉には、万言を尽くしても足りないほどの思いがこもっているように感じられました。

彼らの詩を集めた「奈良少年刑務所詩集」が、寮さんの手によって出来上がりました。一篇々々の詩からは、彼らの歩んできた人生が見えてくるようでした。

幸せだった頃の思い出の数々。そして、それを壊してしまったのは紛れもない自分自身であることに気づき、後悔しても帳消しにはできないあの日が胸をよぎります。被害者への申し訳なさ、無力な自分に押しつぶされそうになる気持ちを吐き出す詩が多く見られました。

また、「おかあさん」をテーマにした詩もかなりの数にのぼりました。「ごめんね」と母親に詫びる詩が並ぶ中、母親と呼べる人を知らずに育った少年の「ぼくから伝えたいことがあるんだ。うんでくれてありがとう」との呼びかけには、深いため息がこぼれました。

そういえば、わが家に育った里子たちの中にも、母の日に「お母さん、大好きです。生んでくれてありがとう」と作文を書いた子がいました。

なんということでしょう。育児放棄され、この子は私とは合わないと突き放されても、子どもは母親を決して見捨てないのです。

目を閉じても、母親の面影さえも浮かんでこない。そんな生い立ちを持っていても、子どもはお母さんが大好きなのですね。いじらしい子どもの心、そして母親という存在の大きさと責任を改めて感じたことでした。

寮さんの授業の素晴らしさは、このように少年たちがやっとの思いで紡ぎ出した言葉を、少年同士がお互いに読んで感想を述べ合うところにあるのではないかと思います。普段の姿からは想像できない書き手の心を、詩の一語々々の中から丁寧に拾い上げるような、思いやりにあふれた発言が続くのだといいます。

ありのままの自分を受け入れ、認めてくれる人がいると気づくことで、こんなにも素晴らしい心が育つのかと思わずにはいられません。

もちろん、そうなったところで彼らの罪が消えるということはありません。むしろ今まで以上に自責の念が湧いてきて、眠れぬ夜を過ごすことになるかもしれません。

やがて外に出ることが許される時、それからが本当に厳しい道のりになるのでしょう。周りからも支えてあげたいものです。家族はもちろんのこと、宗教者である私たちにも力になれる場があるのではと思っています。

さて、わが家に来る里子たちのほとんどが、両親やそれに近い人によって虐待を受けた子どもたちです。また、里子でなくとも、縁あって教会で共に暮らすことになった人々は、それまでの環境からか、独りよがりで相手の気持ちを考えることができなかったり、様々な問題を抱えていることが多いのです。

そんな彼らを迎え入れる立場の私自身が、少年刑務所の彼らのように、どこまでありのままに子どもたちを受け入れ、認めてきただろうかと振り返れば、決してそうではなかったと忸怩たる思いがします。

子どもたちの中には、悪いことだと分かっていても、隠れて人の自転車を勝手に乗り回してみたり、友だちの文房具に手を出す子もいました。まだ若かった私は、それらの行動だけに目を奪われ、その陰に隠れているであろう母恋しさや、何かしらのSOSに気づいてやれなかった時もありました。正しい道を教えたいと思ってしていたことが、その場限りの強制になってしまっていたのではと反省しています。

時は流れ、私は、子どもたちや共に暮らす人々によってここまで育てられ、今があると思います。マイナスを数え上げるより、プラスを認め励ましていくことで、人は大きく成長するということを、様々な場面で身を持って感じるようになりました。

わが家に来た時には表情の乏しかった子どもたちも、自分を受け入れ、認めてくれる人がいることに気づいてくれるのでしょうか。笑顔が増えて、だんだんと明るい顔つきになっていきます。

里子たちは、実の親の環境が整えば元の家に戻っていきます。本来の家族の姿を取り戻すことができれば、私にとってこんなにうれしいことはありません。しかしそれでも、ひと時を共に過ごした教会の家族の一員であることは変わりません。

こうしてわが家の家族が、一人、また一人と増えていく今日の姿をありがたく思いながら、毎日を積み重ねていきたいと思っています。


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