親心、弥生の空に昔も今も

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 三月三日は桃の節句。おひな様は、女の子のお祭りです。

長女が生まれた時、父はよほど嬉しかったのか、それほど余裕のない中で、ひな人形をあつらえてくれました。所狭しと飾られたおひな様の中から父が選んだのは、渋い草木染めの十二単をまとった、上品な顔立ちの木目込み人形でした。もっと子供が喜びそうな華やかなのを選べば良かったのに……と周りから言われもしましたが、私は自分がおひな様を買ってもらったことがなかったので、あることだけで嬉しくて、とても幸せな気持ちでした。

一年に一度出会えるおひな様は、とてもいとおしく、「今年も会えましたね」と言葉をかけながら面差しをながめるのは、どちらかと言えば娘より私の楽しみだった気がします。

それから長い歳月を経て、娘の結婚が決まった時、「そうだ、息子たちがボール遊びで壊してしまったおひな様の指を直してあげないと」と思い立ち、お店に持って行ったところ、「指は元通りに直せますよ。ほかには傷もありませんね。三十年もの間、よくこれほど大切にしてくださって、ありがとうございます」と逆にこちらが感謝され、お礼の気持ちですからと、無償で修理してくださったのには驚きました。

職人さんにとってみれば、一体一体が可愛いわが子のような存在なのだと、その時思いました。大切にしてきたことをこんなに喜んで頂けて、とても豊かな気持ちになりました。

さて、私が生まれ育ったのは、奈良県高市郡高取町(たかいちぐん・たかとりちょう)というところで、日本三大山城(やまじろ)に数えられた高取城の城下町です。今は石垣しか残っていないのが残念ですが、お城のある高取山へと続く町並みは、城下町の名残りか両端に水路があり、連子窓の民家が見られ、趣のある風景です。

小さい頃の思い出といえば、この水路の上に掛けられた橋をぴょんぴょん飛び渡っていて、ドボンと水路にはまってしまったり、家の近くのレンゲ畑でままごとをした帰り道、道路際の有刺鉄線に足を引っかけて真っ逆さまに地面に転落したり、友達と内緒で小川へ行って、大人の手を煩わせるような大ごとになってしまったりと、今にして思えばケガの思い出ばかりです。自覚はなかったのですが、お転婆娘だったんですね。もしかしたら、両親にはずいぶん心配をかけていたかもしれません。

こんなに緑豊かで、静かな町。若い頃は、なんだか物足りないなあと思っていた私のふるさとが、最近とっても元気です。町おこしの風が爽やかに吹いて、多くの人が訪れてくださるとか。

兄に勧められ、弥生三月のある日、夫と久しぶりにお里帰りをしました。聞けば、三月のひと月間、高取の町は「町屋の雛めぐり」と題して、おひな様一色のイベントが開かれ、大型バスも来るほどの賑わいなのだそうです。

手にした案内マップを見ながら坂道を上がってみました。百軒を超すお宅が、おひな様を飾り付けて一般に公開しています。旧家に伝わる立派なお内裏様とおひな様につけられたコメントを読むと、一緒に飾られているつるし雛や可愛い小物は、お姑さんとお嫁さんの手作りによるとありました。娘や孫の幸せを願って、古き良きものにご自分たちの心を添えておられるところが素敵だなと思いました。一針一針進めながら、どんな会話があったのかしらと想像するだけで温かい気持ちになりました。

初孫の新しいおひな様と、おばあさんやお嫁さんが嫁いで来られた時に一緒にやってきた古いおひな様が並んでいるお宅もありました。都会では、今や核家族よりも単身世帯が多い社会の中で、三世代同居はちょっと我慢もいるけれど、たすけられる所も大いにあるし、喜びや楽しさも何倍にもなります。おひな様同士も寄り添っているようで、微笑ましかったです。

圧巻は、五百体ものおひな様が、天井に届きそうな15段のひな壇に飾り付けられたメイン会場です。数もさることながら、どのおひな様もそれぞれの歴史をたどって、今ここに飾られているのだなと思うと、感慨深く、時間の経つのも忘れて見入ってしまいました。

この企画がどのような経緯で始まったのかは分かりませんが、町おこしを通じたたくさんの変化の中で、いちばん変わったのは、きっと、この町に住む人々だろうと思いました。玄関や庭先にお邪魔しただけでも、その家の雰囲気というのは伝わるものです。どのお宅も心を込めて、見に来てくださる方に喜んでもらいたいと、飾り付けにも工夫を凝らしておられる様子が垣間見えました。

その昔、娘や孫の幸せを願い、おひな様を贈った親心。そして、その親心を受けた子供たちが、感謝の心を次の世代に紡いでいく。「町屋の雛めぐり」が、そんな世代を超えた人と人との心をつなぐ機会になったなら、おひな様もきっと喜んでくれることでしょう。

ふるさとの弥生の空に、私は母を、父を思いました。

お父さん、お母さん、おひな様に頼らなくても、私はあなたたちから大切な宝物をいただきましたよ。芯の通った生き方も、人を敬う心も、人を包み込む温かさも、生活の中で映してもらいました。二人がどんな中でも、信仰の火をともして歩き続けてくれたおかげです。今度は私が子や孫に残していきますね。それが二人へのご恩返しですから。

やっぱりふるさとはいいですね。元気がいっぱいわいてきました。

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