ラジオ天理教の時間 子育て 生き方

成一君のグローブ

成一(せいいち)君は小学五年生です。体重26キロ。実は二つ下の弟、勇人(ゆうと)君のほうが1キロ体重が多いそうで、顔には出さずに悔しがっています。

さて、その成一君が小学三年生の時、スポーツ少年団に入って野球をしたいと言い出しました。ところが、お父さんもお母さんも首を縦に振りません。

それには訳がありました。1800グラムという小さい身体で生まれた成一君は、神様の大きなご守護と大勢の人の祈りを頂いて、今でこそ元気に育っていますが、まだまだ十分とは言えません。学校でエネルギーのすべてを使い果たしてくるので、帰ってきたらもうクタクタ。お昼寝をしないと、宿題も夕食も、お風呂も入れないぐらいなのです。

自分から「野球をやりたい」と言えるぐらいに育ってくれたのは本当にうれしいことですが、お父さんもお母さんも、この上にスポーツをして体力が持つとは思えず、もう少し大きくなって身体がしっかりできてから、と思っていたのです。

しかし、反対されても成一君の意志は固く、「絶対に頑張るから」と、とうとう体験入部の許可を勝ち取りました。とは言え、ユニフォームもバットもスパイクも、新しい物は買わないとの約束です。お母さんがママ友さん達に聞いて回って、もう小さくなったり汚れたりして使っていないものを譲ってもらいました。

また、グローブは、お父さんが大学時代に友達とキャッチボールをするのに使っていたものだとか。三年生の成一君の手には大きすぎるのですが、成一君は野球が出来る喜びでいっぱいで、そんなことは一つも気にする様子はありませんでした。

毎週土曜日、日曜日は、大きなリュックをしょってニコニコと出かけて行きました。お母さんに様子を聞いてみると、一年生から野球をしている子たちに交じって、かなり苦戦はしているものの、本人はケロッとしていて、出来なくても出来なくても、次こそは出来るようにと、前を向いて頑張っているとのことでした。

月日は流れ、あれから二年が経ちました。先日、それまで使っていたお父さんのお下がりのグローブにとうとう穴が開きました。補修もままならないぐらいの状態です。

そこでお父さんは、いよいよ成一君にグローブを買ってあげることにしました。生まれて初めて、自分にぴったりのグローブを手にした成一君。どんなに嬉しかったことでしょうね。

これまでの二年間、周りを見てみると、友達はかっこいいグローブやスパイクを使い、おまけに毎回、両親から車で送迎してもらっている子たちがほとんどです。小さな身体で、重い野球道具と大きな水筒を持って歩いていく後ろ姿を見て、おばあちゃんの私は、何度車で送っていってあげようかしらと思ったことでしょう。

一度たりとも愚痴をこぼさず、新しい道具をせがむことなく二年間頑張り通したことを、大きな拍手で褒めてあげたいと思います。

成一君のニコニコ顔をいちばん嬉しく思っているのは、きっとお父さんとお母さんでしょう。体力の心配はあったけれど、少年野球に入ることを許し、すべての道具をお古から始めさせた両親の思いは、成一君にしっかり届いているはずです。何でも願えば、手に入るのが当たり前ではない。辛抱し、努力した上で与えられた時の喜びが、ものを大切にする心を育むのだということを教えたかったのだと思います。

さて、私のこの感動を誰かに伝えたいと思い、ネットでブログに掲載すると、多くの友人から反響がありました。

自分も野球少年だったという友人は、「小さい頃、グローブがぼろぼろになっていても、家の経済状態を思うと、どうしても親に『買ってほしい』とは言えなかった。とうとう傷みがひどくて使えなくなり、父親に頼んだ時は勇気がいった」と綴ってくれました。

また、別の幼馴染は、「知り合いの人に旅行に連れて行ってもらうことになった時、おばあちゃんが、今までそんなこと言ったことないのに、『お出かけ着を買ってあげよう』と言って、何軒も何軒もお店を回ってくれた。おばあちゃんが値段を値切る姿が、ちょっと恥ずかしかったけど」と、心の奥に眠っていた思い出を話してくれました。

今となってみれば、そんな友人たちも親になり、子育て、孫育ての最中です。あの頃、両親やおじいちゃん、おばあちゃんが、どんな気持ちで不自由をさせ、辛抱させたのか。その気持ちは痛いほど分かっています。

不自由さの中で、喜びの心、与えに感謝できる心を育てることは、並み大抵なことではありません。しかしそれこそ、私たちが子どもや孫に残してやれる、火にも焼けない、水にも流されない大きな宝物です。親々が苦労、苦心して私たちを育ててくださったように、私も子どもや孫の心に、この大きな宝物を育ててやりたいと思います。

日曜日、今日も成一君は野球です。「送っていってあげようか」との言葉をグッと飲み込み、「ケガしないように、気をつけてねえ」と、孫の背中に向かって大きな声を掛けて見送るおばあちゃんです。

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