人間いきいき通信 2002年

心のバランスシート

先日、新郎にも新婦にも面識がないのに、彼らの手作り結婚式を手伝わせてもらった。

話はこうである。
友人宅を訪ねたら、先客がおられた。息子の結婚の仲人をお願いに来られていたのである。一応の話も済んで、披露宴はどうしようかというところで、友人が「手作りの披露宴をした方が温かくて心に残る。上手い具合に経験者が来てるよ。」と言って、私たちを引き合わせてくれた。

実は一年ほど前にも、同じような楽しい思い出がある。
今度も仲人の心意気に乗って、世話焼きの面々が集まった。会場の飾りつけからフラワーアレンジメント、ウェディングケーキから余興まで、素人ばかりなのに面白いように人材が揃った。ある物は最大限に利用して『お金は使わず、心を使う』がコンセプト。

当日は、舞台裏で自分達の仕事に乾杯しながら、若い二人の前途を祝した。両家からは大変喜んで頂き、丁重なお礼を述べられたが、考えてみれば、一番楽しんだのは裏方をかって出た私たち自身だったかもしれない。

「みんなに喜んでもらいたい」そんな気持ちに、大概の難問は解決されたし、人との出会いがあり、新しい発見があり、感動もいっぱいもらったのだから・・。

最近ふと心に思って、テレビを見ている子どもの横でつぶやいてみた。
「ねえ、バランスシートって知ってる?家計簿みたいなものだけど、自分の心にも収入や支出があると思わない?」
案の定、子どもらは、「またお母さんが訳の判らないことを言い出した」と呆れ顔で冷たい視線を寄越してきた。いつもの事ながら、この視線を楽しみながら、全く気付かないふりをして、薀蓄を傾けるのは愉快なひとときなのである。

 私はいつも、この世の中はすべてがバランスで成り立っていると思っている。自然界は相反し、相対している二つのものがちょうどいいバランスで成り立っている世界である。例えば、火と水、温みと潤いと言い換えてもいいかもしれない。様々な温みと潤いの中で、万物は育まれている。
 近頃騒がれている環境問題は、人間だけが便利であれば、自分達の時代さえ快適であれば、そんな私たちの驕りが、自然の中に生きるもののバランスを崩れさせたのではないだろうか。支払った代償は、自然の破壊、そして環境ホルモン等の有害物質。その大きさは計り知れない。また、小宇宙といわれる人体は、吐く息と吸う息のバランスが少し乱れただけで、病気を引き起こすこともあるし、内臓器官どれもがお互いに連携し、補い合って生命は保たれている。

 自然界にしろ、人体にしろ、これは人間の手で作り上げたものではない。言わば神様から与えていただいたものであると思う。そうだとすれば、こうしたバランスの保ち方の中に、誰もが願う『幸せな生きかた』のヒントが隠されているのではないだろうか。 

若いうちに体を鍛えれば鍛えるほど、体力がついて丈夫になるように、心も耕せば耕すほど、大きくて豊かになれると思う。

「今までの私は随分自己チューだったけど、これからは、願い事は人の幸せとし、祈りは感謝の祈りにしようと思います。」

知り合って間もない女の子から、こんな嬉しい便りをもらった。あることをきっかけに、人は一人では生きていけない。相手を充分生かしきる心を使ったら、必ず相手も返してくれる。この喜びが幸せなんだと気がついたのだという。

『先ず自分が幸せになりたい』と望む心を離し、周りの人を思いやる気持ちになったら、知らないうちに自分の心がおだやかで優しくなれるということだろうか。そういえば、『優しい』という字は、人を憂うと書く。『優しさ』」は相手に求めるものではなく、自らが与えるものだとその字が教えてくれている。

2002年 天理時報特別号「人間いきいき通信」掲載
執筆者:吉福多恵子


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